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ささめゆき
細雪
谷崎 潤一郎
03 下巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 226,715 字 · 431 页
ず、三時間もたって戻って、食堂をそっと覗いて見、幸子と雪子だけしかいないのを確かめると、そのまま這入って二人の傍へ忍びやかに寄って来て、
「こいさんが御病気でございます」
と、小声で云った。
「へえ、何の病気、―――」
「大腸カタルか赤痢らしゅうございます」
「電話でも懸って来たん」
「はい」
「あんた、行って来たんか」
「はい」
「こいさん、アパートで臥てるのん」
と、雪子が聞くと、
「いいえ」
と云って、お春は下を向いて黙った。
彼女の云うところはこうであった。―――実は今朝早く「お春どんに電話」と云って起されたので出て見ると、奥畑の声で、こいさんが、一昨日僕の家に来ていて急に発病した、それが夜の十時頃であったし、熱が四十度近くもあり、悪寒戦慄を伴ってもいたので、アパートへ帰って臥ると云ったのを引き留めて、僕の家で臥かせた、ところが容態がますます悪く、昨日近所の医師を呼んで診て貰ったら、最初の時はよく分らず、流感か、事に依るとチブスではないかと云っていたが、昨夜の夜中から激しい下痢が始まり、腹が絞り出したので、大腸カタルか赤痢であろうと云うことになった、もし赤痢と決定すれば何処かの病院へ入れなければなるまいが、何にしても看護の手が必要であるからアパートへ帰す訳に行かず、目下僕の家に置いて手当てしているので、このことを内々でお