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ささめゆき
細雪
谷崎 潤一郎
03 下巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 226,715 字 · 431 页
と、雪子は云ったが、
「今少し様子を見てからにしたら」
と、幸子は云った。
もし赤痢と云うことに極まったら何とか処置を考えなければならないけれども、簡単な腸カタルで、二三日で直ると云うこともあるから、今のところそう慌てるにも及ぶまい。さしあたりお春を看病に遣るより外はないとして、貞之助と悦子には、お春は尼崎の実家の方に急用が出来、二三日暇を貰って帰ったと云うことにして置こうではないか、と、幸子は云って、
「お医者さんはどんな人にかかってるのん」
「どんなお方か、わたくしはまだお目に懸りません。近所の知らない先生で、始めてお頼みになったお方や云うことでございますけど、………」
「櫛田さんに診て貰うた方がええけどなあ」
と、雪子が云った。
「ほんになあ」
と、幸子も云って、
「―――アパートやったらよかったのんに、啓坊の所やったら、やっぱり呼ばん方がええやろな」
幸子には、あれで案外気の弱いところのある妙子が、中姉ちゃんに黙っててほしいなどと口の先ではえらがりを云っても、本当の気持はその反対であることがよく分るので、こう云う時にはきっと家庭の有難みを身に沁みて想い出しているであろうし、自分や雪子が側にいてくれないことをどんなにか心細く感じているであろうと察した。