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ささめゆき

細雪

谷崎 潤一郎

03 下巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 226,715 字 · 431 页

青空文庫

雪子はそんな有様を見るにつけても、いよいよ医者を取り変える必要を感じ、病人が少し落ち着いた折を待って、どうしても櫛田先生に来て貰うのがよいと思うが、と云う話を持ち出して、もう一度よく聞いて見ると、矢張推量した通りで、理由は云わないのだけれども、此処の家にいつ迄も臥ていたくない、病院でも甲麓荘の部屋でもよいから、別な所へ移して欲しい、その上でなら櫛田先生に診て貰うが、此処へ来られるのが嫌なのである、―――と、奥畑が枕元にじっと息を詰めているので、それに気がねしつつ云うのであるが、結局のところはそう云うことらしいのであった。奥畑は病人の言葉にひどくイライラして、こいさん、そない云わんと僕所にいなさい、何もそんなに気イ使うことないやないか、と、頻りに思い直させようとするのであったが、病人はそれが全く聞えないような顔をして、雪子にばかり物を云うので、とうとう奥畑は青筋を立て、何でこいさん僕所が嫌になったん、と、ちょっと声の調子を上げた。雪子はその場の様子から、昨夜の妙子の譫語が原因で二人の間に感情の縺れがあるらしいことを察したが、それには触れずに、病人に食って懸ろうとする奥畑を宥め、御好意は寔に有難いけれども、自分たちとしてもそう長い間病気の妹をお預けして置く訳にも行きかねるし、蘆屋の姉もこう云って来たので、と