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ささめゆき

細雪

谷崎 潤一郎

03 下巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 226,715 字 · 431 页

青空文庫

そして、いいえ、何もお見送り戴かなくっても宜しいのでございますけれども、実は東京で皆さんに御紹介申上げたい方があるのでございます、………と云う話なのであった。

井谷は、そこでちょっと言葉に句切りを附けてから、下のようなことを語った。―――ここに、御当人の御嬢様が聞いておいでになる前で、斯様な慌しい際に斯様な話を持ち出すのも如何であるけれども、自分が神戸を去るに方って一番心懸りなのは、何とかして自分の力でと思っていた雪子お嬢さんの御縁を、遂に纏めて上げることが出来ず、このままお別れするような羽目になったことである。ほんとうに、自分はお世辞でも何でもなく、こんな結構な御姉妹を持った良いお嬢さんはいらっしゃらないと思うにつけても、何か自分に課せられた責任を果たさずに行くような気がしてならず、この際になっても出来るものならお嬢さんの縁談に目鼻をつけ、心懸りの種を除いて行きたい念願が切なのであるが、それについて一つあなた方に提議したいことがある。と云うのは、あなた方も名前は御存知であろうが、維新の際に功労のあった公卿華族で御牧と云う子爵がある。尤も、国事に奔走した人は先代の広実で、当主広親はその子であるが、この人も既に余程の高齢に達しており、嘗ては貴族院の研究会に属して政界に活躍した経歴の持主だけれども、今では祖先