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ささめゆき

細雪

谷崎 潤一郎

03 下巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 226,715 字 · 431 页

青空文庫

を云って出て行ってから、幸子が先に入浴し、入れ代って雪子が入浴している時であった。バスルームから出て来た幸子は、妙子が観劇の衣裳のままで羽織も脱がずに、絨毯の上に新聞紙を敷いて横倒しにすわったなり安楽椅子に靠れかかっているのを見、皆の附合いで帰り路を歩かせられたのが答えたのであろうと察しはしたが、それにしても、そのくたびれ切ったような姿勢が尋常でない気がしたので、

「こいさん、まだ体が本当でないのんやろうけど、何処ぞ外にも悪いとこあるのんと違うやろか。帰ったら一遍櫛田さんに診て貰うことやな」

と云うと、

「ふん」

と、云ったきり、矢張大儀そうにしながら、

「診て貰わんかて分ってるねん」

と云うのであった。

「そんなら、何処ぞ悪いとこあるのん」

幸子がそう云うと、妙子は安楽椅子の腕の上に横顔を載せ、どろんとした眼を幸子に注いで、

「うち、多分三四箇月らしいねん」

と、いつもの落ち着いた口調で云った。

「え?………」

途端に息を詰めて、穴の開くほど妙子の顔を視据えていた幸子は、やや暫く間を置いて、ようよう次の言葉を云うことが出来た。

「………啓坊の子かいな?………」

「三好と云う人のこと、中姉ちゃん婆やさんから聞いてるやろ」