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ささめゆき
細雪
谷崎 潤一郎
03 下巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 226,715 字 · 431 页
二人が這入って行くと、客は未亡人と初対面の挨拶を取り交しているところであったが、幸子達の紹介が済んだあとで、正面の床の間を背にして沢崎、側面の襖を背に、庭の明りを前にして幸子と雪子、末座の、沢崎と向い合う席に未亡人が坐った。沢崎は席に就く前に、薄端に未生流らしい矯め方をした葉蘭が活けてある床の間を向いて跪き、掛軸の書を丹念に打ち眺めている様子であったが、幸子と雪子とはその隙に彼の後姿へ眼を遣った。四十四五と云うことであったが、外見も先ずそのくらいで、痩せた、小柄な、腺病質らしい血色をした紳士である。物の云い方、頭の下げ方、体の取りなし、等も尋常で、金持ぶっている風はなく、型は崩れていないけれども角々のやや擦り切れた茶の背広服、たびたび水を潜ったものらしく黄色くなった富士絹のワイシャツ、縞模様の消えかかった絹の靴下、等々を身に着けているところは、幸子達の装いに比べて少しお粗末過ぎ、今日の見合いを如何に手軽に考えているかと云う証拠にもなるが、なかなか倹しい生活の人であることをも語っている。と、沢崎は、掛軸の詩が満足に読み下せたのかどうか、
「この星巌はまことに結構でございますな」