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ささめゆき
細雪
谷崎 潤一郎
03 下巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 226,715 字 · 431 页
三十七
ここにその端書を同封して置きます
今日までは非常に寒い気候でしたが、これからだんだん暖かになりそうです。正月は零下十八度だったのですから想像して下さい。でも屋内はスティームの煖房がありますので、快く、暖かであります。独逸の家屋は二重窓になっているので、日本のよりもずっと頑丈です。従って隙間風などは這入って来ません
さて、お稽古に行く時間が来ましたから、これで失礼いたします。何卒あなたからもお便りを願います
敬具
フリーデル・ヘニング
そしてこの中に、ハンブルクのシュトルツ夫人から伯林マイエルオットー街のヘニング嬢に宛てた、指輪を受領したことを報じた絵端書が、丁寧にも封入されていたのであった。
三十七
三月一杯を渋谷の姉夫婦の許で暮した雪子は、結婚の日までそのまま滞留していてもよいのであったが、矢張長くはいる気になれず、それよりは蘆屋の家族たちとこそゆっくり名残を惜しみたいので、月が変るとさっさと此方へ戻って来てしまった。そして、国嶋からの伝言として、挙式を二十九日の天長節にすること、披露は帝国ホテルで行うこと、御牧側では、子爵は老体のことであるから、嗣子の正広夫妻が代理を勤めるであろうこと、等々の話をした。