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ささめゆき
細雪
谷崎 潤一郎
03 下巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 226,715 字 · 431 页
さっきも悦子が、姉ちゃん今日は東京へ行くのを止めて悦子を送って来なさいと、冗談のように云った時、又直きに出て来るよってにと、彼女は軽く受け流してしまったものの、正直を云えば、もう一遍蘆屋へ戻って日を改めて立つことにしようか、―――と、ふっと真面目にそんなことを考えたくらいであった。二等室は昨日以上に空いていたので、彼女は四人分の席を一人で占めて、腰掛の上に膝を折って坐り、うしろに靠れて眠る姿勢を取って見たけれども、左の肩が頸が廻らないほど凝って来たので、昨日のように巧く眠れず、少しとろとろとしかかっては直ぐ眼を覚まし覚まししたが、それも三四十分ほどの間で、弁天島を過ぎた頃にはすっかり眼が覚めていた。彼女はちょうどその少し前から、向う側の四五側隔てた席に、此方を向いて腰掛けている男の顔があるのを知っていたが、実はその顔が自分の寝顔にまともな視線を注いでいるらしいのに気が付いて、それではっと眼を覚ましたのでもあった。男は、彼女が足を腰掛からおろして草履を穿き、そっと居ずまいを直したのを見ると、自分も一往窓の方へ眼を外らしたが、それでも何か気になることがあるらしく、暫くすると又ジロジロと雪子を見据えた。