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だっせんむすこ

脱線息子

佐々木 邦

「キング」大日本雄辯會講談社、1927(昭和2)年7月~1928(昭和3)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 108,293 字 · 221 页

青空文庫

とお上さんは誤解していた。結局、そこの主人の庶弟のところも貸間をしているから、それへということになった。新太郎君は今度は用心深く相宿を確めたが、

「一人東京から年寄の方が見えています。釣道楽で朝から晩まで岩の上に立っているくらいですから大丈夫でしょう」

とあった。

引き移った宿は前のよりも間数が多く且つ小綺麗で申分なかった。新太郎君は一番好い室を占領した。同宿の老人は毎朝釣竿を担いで出て行く。夕方にならなければ帰らない。

「大分熱心のようですが、何か釣って来ますか?」

と或日そこの主人に訊いて見た。

「あれこそ下手の横好きってんでしょうな。河豚ばかりです」

「河豚は食えますまい?」

「食えませんけれど、釣れないよりは宜いと見えて持って来ます。しかし彼奴は鶏が食っても死にますから、肥溜へ棄てるより外ありません」

「厄介ですな」

「けれども面白いんですよ。釣竿さえ持っていればニコ/\ものです。あれで鯛を釣って来れば真正のお恵比須さんでさあ」

と亭主は笑っていた。

或朝新太郎君は干潟を歩いていると、岩の上でもう釣魚を始めていた老人が振り向いたから、

「何うですか?」