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だっせんむすこ

脱線息子

佐々木 邦

「キング」大日本雄辯會講談社、1927(昭和2)年7月~1928(昭和3)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 108,293 字 · 221 页

青空文庫

「私は失礼致します」

と一礼して、新太郎君は二階の書斎へ上ってしまった。

一時間ばかりの後、来客らしい気配が下から聞えた。寝そべっていた新太郎君は宮地さんかと思って頭を擡げたが、

「新太郎君」

と寛一君が階段の下から呼んだ。

「上り給え」

と新太郎君は起き直った。

「何うだい? 未だらしいね」

と寛一君は上って来た。

「うん」

「晩いね?」

「晩い」

「悲観しているのかい?」

「悲観している」

と新太郎君は一々鸚鵡返しだった。寛一君も持て余す。

「僕は有望だと思うよ」

「何故?」

「家へ帰ってマザーに訊いて見たら、御家人は小禄ながら直参だそうだ」

「僕はもう諦めている」

「何うして?」

「宮地さんは当てにならない。もう最後の手段あるばかりだ」

「最後の手段というと?」

と寛一君は不安そうな顔をした。

「マザーに直接先方のマザーへ泣きつかせるんだ」

「成程」

「先方だって子を持つ親の情愛は分っているから、これなら或は動くだろうと思う」

「然うだね」

「それでも駄目だったら、僕は洋行してベスービアスの噴火口へ身を投げてしまう」

と新太郎君はもう自暴だった。

折から、

「さあ、何うぞ此方へ」

と客を請じる父親の声が手に取るように聞えた。