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だっせんむすこ

脱線息子

佐々木 邦

「キング」大日本雄辯會講談社、1927(昭和2)年7月~1928(昭和3)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 108,293 字 · 221 页

青空文庫

「秀子さん」

「あなたは何方様でいらっしゃいますか?」

「西川です」

と新太郎君も馬鹿々々しいけれど拠ろなかった。逆らえば何んな目に会うかも知れない。

「何処の西川さんでいらっしゃいますか?」

「銀座の西川です」

「何方に御用でいらっしゃいますか?」

「松浦さんにお目にかゝり度うございます」

「松浦は大主人でございますか? 若主人でございますか?」

「若主人に一寸お取次を」

「何ういう御用向でいらっしゃいますか?」

と秀子さんは何処までも真剣だ。

「さあ、御無沙汰伺いです」

「お名刺を戴きましょう」

「生憎と持ち合わせません」

「それでは西川何様と仰有いますか?」

「新太郎と申します」

と新太郎君が完全に名乗を上げた時、

「秀子さん、好い加減にしなさいよ。さあ、西川さん、何うぞ」

と友三郎さんが笑いながら出て来た。

客間へ通ったが、秀子さんはもうそれきり姿を見せない。

「悉皆御機嫌を損じてしまいました」

と新太郎君は頻りに髪の毛を扱き始めた。煩悶があると必ずこれをやる。

「何あに、心配はありません。その中に直りますよ」

と友三郎さんは落ちついている。

「飛んだ失礼を申上げました。今参ります」