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じゆうじん
自由人
豊島 与志雄
「芸術」1948(昭和23)年7月、9月、11月、1949(昭和24)年1月(未完)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 69,030 字 · 139 页
九
胸に抱きしめたい思いだった。
彼は若竹を出て、真直に家へ帰った。台風はもうすっかり通り過ぎたらしく、晴れた空には秋の気があった。風だけがまだ少し強かった。彼は帽子をぬいで、頭を風にさらした。
九
何故ともなく、これからしっかりしなければいけない、何が起ってもそれに対応するだけの心構えを準備しておかなければいけないと、そんな気持ちが、ふっと、然し徐々に根深く、起ってくることが往々ある。心境の推移というほどのものではなく、漠然たる予感に似たものである。北村庄作もそれを感じた。そしてこの気持ちを大切なものとして、心の底に落着けるために、制作に没頭しようとしたが、なかなかうまくゆかなかった。いろいろなことが気に懸るのだ。気懸りの一つの種である松本家を、彼は訪れてみた。
家の中の様子が、平素とはなんだか違ってるようだった。
彼は茶の間に通された。その表向きでない待遇はいつものことだが、千重子は外出しているし、順造のところへ挨拶に行こうとすれば、寝ているとのこと。
「どうも、病気ではないかと思われますのよ。」と富子夫人は言うのである。「昼間も晩も、寝ている時の方が多くなりましてね。