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じゆうじん
自由人
豊島 与志雄
「芸術」1948(昭和23)年7月、9月、11月、1949(昭和24)年1月(未完)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 69,030 字 · 139 页
最も実際的なこの行為についても、彼には何等のモチーフもなかったのだ。ただ置きざりにされた結果だった。あらゆる方面に於けるモチーフの涸渇、制作上のそればかりでなく現実上のそれは、いったいどこから来たのか。四十五歳ではまだ年齢のせいとはし難い。酒に親しんでるとはいえアルコール中毒とは思えない。
原因は分らなかったが、とにかく、その高峯を乗り越えなければならなかった。
北村は肚を据えた。お上さんを呼んで、昨夜来の自分の勘定を聞くと、すべて周さんの方へとなっていた。軽い朝食に銚子を一本頼み、喜代香の方は断った。
宿酔の気味で、パンも喉へ通らず、酒だけを飲んだ。雀の声がどこかにした。それにつれて思い出した。自宅から真正面に見える椎の大木に、今でも鳶がいる。親ではなく、どうも仔鳶が育ったものらしい。二羽いる。朝や夕方によく鳴く。ピーヒョ、ピーヒョ、と鳴く。まだヒョロヒョロとは鳴けない。形も小さく、飛び方も低い。だが、それが他の群鳥を威圧している。可愛いながら威圧している。烏も寄りつかないのだ。雀だけがその下枝の茂みに戯れている。
その鳶を北村は見たくなった。