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じゆうじん

自由人

豊島 与志雄

「芸術」1948(昭和23)年7月、9月、11月、1949(昭和24)年1月(未完)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 69,030 字 · 139 页

青空文庫

雨音は弱まり、風の息吹きが長くなった。話が途切れると、盤上の鉄丸のころがりだけが、心を奪った。

「あ。」

低い声を八重子が立てた。扉のところに、父が立っていた。単衣の着流しに帯をぐるぐる巻きつけてるだけだが、その頑丈な体躯と、禿げ上ってる額と、たじろがない眼差しとに、なにか威圧的なものがあった。

三人とも立ち上った。黙っていた。

父は真直に歩いて来た。

「なんだ、コリントか。」

にこりともせず、眉も動かさなかった。

父は室の中をぐるりと見廻した。

「遊んでしまったら、窓をよく閉めておきなさい。」

そして父は真直に出て行った。

三人はつっ立ったままでいた。父の出現は夢のような印象だった。風の音が急に耳に響いてきた。千重子は八重子を軽く突っついた。

「おやすみなさいと、なぜ御挨拶をしなかったの。」

「だって、お姉さまも、黙っていらしたんじゃないの。」

千重子は唇をきゅっと歪めた。窓の方へ行って、開いてる扉をしめきり、なにか考えながら戻ってきた。

「も少し、飲んでもいいかしら。」

「遠慮はいらないよ。お父さんだって、何とも仰言らなかったじゃないか。」

でも順一は、ふしぎそうに千重子の顔を眺めた。