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じゆうじん

自由人

豊島 与志雄

「芸術」1948(昭和23)年7月、9月、11月、1949(昭和24)年1月(未完)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 69,030 字 · 139 页

青空文庫

そこの二階の、六畳の日本室に、菅原はくつろいだ。これは周の研究室でもあり、昼寝の場所でもあり、また特別な応接室でもある。

一方の壁一面に、作り附けの戸棚があり、曇り硝子の戸がしめられていて、その中に、各種の漢法医薬が並んでいる。薬草の類はたいてい揃っており、その他に、黒焼のものや、動物の肝や虫の干物など、さまざまだ。両方の欄間に向いあって漢文の扁額が懸り、一つには、「其人ヲ看テ其病ヲ看ズ」とあり、一つには、「静ニ処シテ以テ動ヲ観ル」とある。前者は漢方医学の真諦であり、後者は周自身の心境であろうか。

夫人の素英が茶菓を運んできたあと、周ははじめて尋ねた。

「旅行が少し長すぎたようだが、何をしていましたか。」

「山を見てきたんです。阿蘇、高千穂、桜島、それから慾をだして、浅間まで廻ってきました。」

「ほう、それは大変だ。旅費はあれで足りましたか。」

「すみません、電報なんかうって。おかげで、充分でした。もっとも、学生旅行のつもりで、思いきって倹約はしました。」

「そういうことなら、もっと送るんでした。」

「いや、学生旅行の方がよかったんです。ただ残念なのは、僕に薬草の知識がないものだから、そのお土産がなにもないんです。