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じゆうじん

自由人

豊島 与志雄

「芸術」1948(昭和23)年7月、9月、11月、1949(昭和24)年1月(未完)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 69,030 字 · 139 页

青空文庫

八

俺は自分の古い肝を噴火口の中に投げ込んできたつもりだったが、体を離れて肝はなく、それはやはり俺の胸の中にあるのだ。瞞されてはいけない。ただ、その古い肝を新らしいものに更生させなければならないのだ。まだ未練があるのか。古い肝の憂愁が俺を苦しめるのか。もうたくさんだ。秋晴れの好天気が続く頃だ。起き上ってやれ。

八

北村庄作はしずかに眼覚めた。泥酔後のこととて、徐ろに晴れてゆく霧の中に意識はまだ半ばたゆたってる気持ちで、謂わば水中の魚の眼覚めもそのようなものであろうか。

もはや陽も高く昇っているらしい明るみが、障子一面にさしていた。北村は布団の中で思いきり伸びをし、枕頭の水をがぶがぶ飲み、煙草を吸った。だが意識は冴えなかった。布団を頭まで被ってみた。ふっと、涙が出てきた。

その涙に、彼は駭然とした。悲しいことがあったのではない。泣きたいことがあったのではない。理由もなく流れだした涙なのだ。それ故に却って、根深く心に痕を止めて、漠然たる恐怖を起させる。自分自身が、すべてのものが、宙に浮いて頼りない感じだった。

足場を求めて、彼は昨夜来のことを思い起してみた。