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じゆうじん

自由人

豊島 与志雄

「芸術」1948(昭和23)年7月、9月、11月、1949(昭和24)年1月(未完)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 69,030 字 · 139 页

青空文庫

貧乏は昔からでしょうと、お上さんは笑った。お金が足りなかったら、絵を書いていきなさい、とも言った。以前この家には、日本画家の軸物ばかりでなく、洋画家の余技のものまで沢山あった。それらを空襲の火災に焼いてしまったことを、お上さんはひどく残念がっている。

芸者まで交えて、一座は賑やかになった。放談と酒がはずんだ。ところが、はじめは酒興をそそった筈の風雨が、烈しさをまして重苦しくなってきた。紀州沖に来ていた台風が、関西方面に上陸する予定を変え、次には静岡方面に上陸する予定を変え、房総沖を通過することになったらしく、東京の被害も予想された。何よりも交通機関が心配だった。夕刻、一同は早めに引上げることにした。

その時を待ち構えていたように、北村のところへ一枚の名刺を女中が持って来た。北村はうなった。菅原洋平の名刺なのだ。ちょっとお目にかかりたいと書いてある。

「この家に来ているのかい。よろしい、私の方から行く。」

北村は仲間と別れた。

北村は呆れた。

奥の静かな八畳の室で、菅原は酒を飲みながら碁をうっていた。相手は、天元社の若い編輯者の須田正太郎である。菅原は顔を挙げて、丸い眼付きでじっと眺めた。