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きくやしき
菊屋敷
山本 周五郎
「菊屋敷」産報文庫、大日本雄辯會講談社、1945(昭和20)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 36,620 字 · 71 页
志保のすること、志保の考えること、それがみんな子供の上に現われる。まるで鏡のように、母親の挙措言動がそのまま子供の上に反映するのである、――子供を育てるということは自分が修業することだ、志保が心からそう悟ったのは明くる年の秋の頃だった。子供は教えられることよりも、教えまいとすることのほうをすばやく覚える。こちらが膝を正して訓すことは聞きたがらない。しかしたとえば寝そべって話す気楽な話はよく聞く。あらわれたところよりも隠れてみえないところに興味をもつ。だから事のよしあしは、訓えるよりもまず自分で示すほうがすなおに受け容れられるのだ。
「養育するのではない」志保はつくづくとそう思った、「……自分が子供から養育されるのだ、これが子供を育てる根本だ」
母子の愛情というものもしぜんに結ばれてゆき、性質も少しずつ志保の望むほうへと根をひろげた。質素に、勤倹に、剛毅に、云ってしまえば簡単であるが、じっさいにはなかなか困難なことを、自分から身を以て示しつつ導いていった。……厳寒の未明に起こし、裏の小川へいって、薄氷を破って半へ水を汲み洗面させる。いかに寒くとも肌着に布子、半袴よりほかには重ねさせない。