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せいねん
青年
「昴」1910(明治43)年3月~1911(明治44)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 123,670 字 · 246 页
それをせぬ間、向うで控えているのは、あの奥さんのつつましい、frivole でないのを証拠立てているのではあるまいか。それともわざと縦って置いて、却って確実に、擒にしようとする手管かも知れない。若しそうなら、その手管がどうやら己の上に功を奏して来そうにも感ぜられる。遠慮深い人でないということは、もう経験していると云っても好い。どうしても器を傾けて飲ませずに、渇したときの一滴に咽を霑させる手段に違いない。純一はこんな事を思っているうちに、空想は次第に放縦になって来るのである。
この時飛石を踏む静かな音がした。
「いらっしって」女の声である。
純一ははっと思った。ちゃんと机の前に据わっているのだから、誰に障子を開けられても好いのであるが、思っていた事を気が咎めて、慌てて居住まいを直さなくてはならないように感じた。
「どなたです」と云って、内から障子を開けた。
にっこり笑って立っているのはお雪さんである。きょうは廂髪の末を、三組のお下げにしている。長い、たっぷりある髪を編まれるだけ編んで、その尖の処に例のクリイム色のリボンを掛けている。黄いろい縞の銘撰の着物が、いつかじゅう着ていたのと、同じか違うか、純一には鑒別が出来ない。