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せいねん

青年

森 鴎外

「昴」1910(明治43)年3月~1911(明治44)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 123,670 字 · 246 页

青空文庫

金鎖は天晴 mcne らしい顔をして聞いている。おちゃらはさも退屈らしい顔をして、絎紐程の烟管挿しを、膝の上で結んだり、ほどいたりしている。この畚の中の白魚がよじれるような、小さい指の戯れを純一が見ていると、おちゃらもやはり目を偸むようにして、ちょいちょい純一の方を見るのである。

視線が暫く往来をしているうちに、純一は次第に一種の緊張を感じて来た。どうにか解決を与えなくてはならない問題を与えられているようで、窘迫と不安とに襲われる。物でも言ったら、この不愉快な縛が解けよう。しかし人の前に来て据わっているものに物は言いにくい。いや。己の前に来たって、旨く物が言われるかどうだか、少し覚束ない。一体あんなに己の方を見るようなら、己の前へ来れば好い。己の前へ来たって、外の客のするように、杯を遣るなんという事が出来るかどうだか分からない。どうもそんな事をするのは、己には不自然なようである。強いてしても柄にないようでまずかろう。向うが誰にでも薦めるように、己に酒を薦めるのは造作はない筈である。なぜ己の前に来ないか。そして酌をしないか。向うがそうするには、先ず打勝たなくてはならない何物も存在していないではないか。