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せいねん
青年
「昴」1910(明治43)年3月~1911(明治44)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 123,670 字 · 246 页
社会のあらゆる方面は、相接触する機会のある度に、容赦なく純一の illusion を打破してくれる。殊に東京に出てからは、どの階級にもせよ、少し社会の水面に頭を出して泳いでいる人間を見る毎に、もはや純一はその人が趣味を有しているなんぞとは予期していない。そこで芸者が趣味を解していようとは初めから思っていない。
しかしおちゃらはこのにやけ男を、青眼を以て視るだろうか。将た白眼を以て視るだろうか。
純一の目に映ずる所は意外であった。おちゃらは酌をするとき、ちょいと見たきり顧みない。反応はどう見ても中性である。
俳優はおちゃらと袖の相触れるように据わって、杯を前に置いて、やはり左の手を畳に衝いて話している。
「狂言も筋が御見物にお分かりになれば宜しいということになりませんと、勤めにくくて困ります。脚本の長い白を一々諳記させられてはたまりません。大家のお方の脚本は、どうもあれに困ります。女形ですか。一度調子を呑み込んでしまえば、そんなにむずかしくはございません。女優も近々出来ましょうが、やはり男でなくては勤めにくい女の役があると仰しゃる方もございます。西洋でも昔は男ばかりで女の役を勤めましたそうでございます」