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せいねん

青年

森 鴎外

「昴」1910(明治43)年3月~1911(明治44)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 123,670 字 · 246 页

青空文庫

二十

半醒覚の純一が体には慾望の火が燃えていた。そして踏み脱いでいた布団を、又領元まで引き寄せて、腮を埋めるようにして、又寐入る刹那には、朧げな意識の上に、見果てぬ夢の名残を惜む情が漂っていた。しかしそれからは、短い深い眠に入ったらしい。

純一が写象は、人間の思量の無碍の速度を以て、ほんの束の間に、長い夢を繰り返して見た。そして、それを繰り返して見ている間は、その輪廓や色彩のはっきりしていて、手で掴まれるように感ぜられるのに打たれて、ふとあんな工合に物が書かれたら好かろうと思った。そう思って、又繰り返して見ようとすると、もう輪廓は崩れ色彩は褪せてしまって、不自然な事やら不合理な事やらが、道の小石に足の躓くように、際立って感ぜられた。

二十

午前十時頃であった。初音町の往来へ向いた方の障子に鼠色の雲に濾された日の光が、白らけた、殆ど色神に触れない程な黄いろを帯びて映じている純一が部屋へ、大村荘之助が血色の好い、爽快な顔付きをして這入って来た。

「やあ、内にいてくれたね。葉書は出して置いたが、今朝起きて見れば、曇ってはいるけれど、先ず東京の天気としては、不愉快ではない日だから、どこか出掛けはしないかと思った」