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せいねん

青年

森 鴎外

「昴」1910(明治43)年3月~1911(明治44)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 123,670 字 · 246 页

青空文庫

一種の探検である。びた鉄瓶、焼き接ぎの痕のある皿なんぞが、それぞれの生涯の ruine を語る。

きょう通って見ても、周囲の影響を受けずにいるのは、この店のみである。

純一が古道具屋を覗くのを見て、大村が云った。「君はいろんな物に趣味を有していると見えるね」

「そうじゃないのです。あんまり妙な物が並んでいるので、見て通るのが癖になってしまいました」

「頭の中があの店のようになっている人もあるね」

二人はたわいもない事を言って、山岡鉄舟の建てた全生庵の鐘楼の前を下りて行く。

この時下から上がって来る女学生が一人、大村に会釈をした。俯向けて歩いていた、廂の乱れ髪を、一寸横に傾けて、稲妻のように早い、鋭い一瞥の下に、二人の容貌、態度、性格をまで見たかと思われる位であった。

大村は角帽を脱いで答礼をした。

純一は只女学生だなと思った。手に持っている、中身は書物らしい紫の包みの外には、喉の下と手首とを、リボンで括ったシャツや、袴の菫色が目に留まったに過ぎない。実際女学生は余り人と変った風はしていなかった。着物は新大島、羽織はそれより少し粗い飛白である。袴の下に巻いていた、藤紫地に赤や萌葱で摸様の出してある、友禅縮緬の袴下の帯は、純一には見えなかった。