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せいねん

青年

森 鴎外

「昴」1910(明治43)年3月~1911(明治44)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 123,670 字 · 246 页

青空文庫

大村がこう云って、詞を切ったとき、二人は往来から引っ込めて立てた門のある、世尊院の前を歩いていた。寒そうな振もせずに、一群の子供が、門前の空地で、鬼ごっこをしている。

「一体どんな性質の女ですか」と、突然純一が問うた。

「そうさね。歌を見ると、情に任せて動いているようで、逢って見ると、なかなか駈引のある女だ」

「妙ですね。どんな内の娘ですか」

「僕が問いもせず、向うが話しもしなかったのだが、後になって外から聞けば、母親は京橋辺に住まって、吉田流の按摩の看板を出していると云うことだった」

「なんだか少し気味が悪いようじゃありませんか」

「さあ。僕もそれを聞いたときは、不思議なようにも思い、又君の云う通り、気味の悪いようにも思ったね。それからそう思ってあの女の挙動を、記憶の中から喚び起して見ると、年は十六でも、もうあの時に或る過去を有していたらしいのだね。やはりその身元の話をした男が云ったのだが、茂子さんは初め女医になるのだと云って、日本医学校に這入って、男生ばかりの間に交って、随意科の独逸語を習っていたそうだ。その後何度学校を換えたか知れない。女子の学校では、英語と仏語の外は教えていないからでもあろうが、医学を罷めたと云ってからも、男ばかりの私立学校を数えて廻っている。