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せいねん

青年

森 鴎外

「昴」1910(明治43)年3月~1911(明治44)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 123,670 字 · 246 页

青空文庫

九

大学前から、道幅のまだ広げられない森川町に掛かるとき、大村が突然こう云った。

「君、瀬戸には気を着けて交際し給えよ」

「ええ。分かっています。Bohme ですから」

「うん。それが分かっていれば好いのです」

近いうちに大村の西片町の下宿を尋ねる約束をして、純一は高等学校の角を曲った。

九

十一月二十七日に有楽座でイブセンの John Gabriel Borkmann が興行せられた。

これは時代思潮の上から観れば、重大なる出来事であると、純一は信じているので、自由劇場の発表があるのを待ち兼ねていたように、早速会員になって置いた。これより前に、まだ純一が国にいた頃、シェエクスピイア興行があったこともある。しかしシェエクスピイアやギョオテは、縦いどんなに旨く演ぜられたところで、結構には相違ないが、今の青年に痛切な感じを与えることはむずかしかろう。痛切でないばかりではない。事に依ると、あんなクラッシックな、俳諧の用語で言えば、一時流行でなくて千古不易の方に属する作を味う余裕は、青年の多数には無いと云っても好かろう。極端に言えば、若しシェエクスピイアのような作が新しく出たら、これはドラムではない、テアトルだなんぞと云うかも知れない。