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くろとかげ

黒蜥蜴

江戸川 乱歩

「日の出 第三巻第一号―第十二号」1934(昭和9)年1月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 107,633 字 · 215 页

青空文庫

潤一はさいぜんの幻と、いま円光の中に現われたものとの、無気味な符合にふるえあがった。大罪を犯して心みだれた彼は、まだその部屋がどこであるかをさとり得ないで、おれは気でも違ったのか、それとも悪夢にうなされているのかと、思いまどった。

だが、その次に懐中電燈がうつし出した光景には、さすがの彼も、黒衣婦人の注意を忘れて、ギャッと叫ばないではいられなかった。

これが地獄の光景でなくてなんであろう。そこには六畳敷ほどの大きさの浴槽のようなものがあって、その中に二重にも三重にも、老若男女の全裸の死体が、ウジャウジャ積みかさなっているのだ。

血の池に亡者どもがひしめき合っている、地獄絵にそっくりの物恐ろしい有様、これがはたしてこの世の現実なのであろうか。

「潤ちゃん、弱虫ねえ。驚くことなんかありゃしないわ。これ解剖実習用の死体置場なのよ。どこの医学校にだってあるものよ」

黒衣婦人の声が、大胆不敵に笑っていた。

ああ、そうなのか。やっぱりこれは大学の構内だったのか。しかし、それにしても、一体全体なんの用事があって、こんな無気味な場所へこなければならなかったのだろう。