轻松读懂日语经典作品
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くろとかげ
黒蜥蜴
江戸川 乱歩
「日の出 第三巻第一号―第十二号」1934(昭和9)年1月号~12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 107,633 字 · 215 页
あたしたち、陸路をとれない時は、いつもこの船を利用していますの。こういううまい道具がなくっちゃ、その筋の眼を、長いあいだのがれていることなんぞ、思いもおよばないわね」
「でも、あたし……」
早苗さんが、何かしら強情な様子をして、上眼使いにチラと黒衣婦人を見た。
「でも、どうだとおっしゃるの?」
「あたし、そんな所へ行くの、いやですわ」
「そりゃ、あたしだって、あんたがすき好んで行くなんて思ってやしない。いやでしょうけど、あたしはつれて行くのよ」
「いいえ、あたし、行きません、決して……」
「まあ、大へん自信がありそうね。あんたはこの船から逃げ出せるとでも思っているの?」
「あたし信じていますわ。きっと救ってくださいますわ。あたしちっとも怖くはありませんわ」
この確信に満ちた声を聞くと、黒衣婦人は何かしらギョッとしないではいられなかった。
「信じているって、だれをなの? だれがあんたを救ってくれるの?」
「おわかりになりません?」
早苗さんの口調には、解きがたき謎と、不思議に強い確信がふくまれていた。かよわいお嬢さんを、これほど強くさせたものは、一体全体何者の力であったか。