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くろとかげ
黒蜥蜴
江戸川 乱歩
「日の出 第三巻第一号―第十二号」1934(昭和9)年1月号~12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 107,633 字 · 215 页
人形異変
の私室の前に近づくと、やっぱり暗号めいた叩き方で、そこのドアをノックした。
「おはいり」
女賊の権威を以て、荒くれ男ばかりの中にいても、ドアに鍵をかけるなんて不見識なことはしない。夜中であろうが、「おはいり」の一ことで、ドアはいつでもひらくようになっている。
「まあ、どうしたのさ、朝っぱらから。まだ六時じゃないの?」
「黒トカゲ」は白いベッドの上に、白絹のパジャマ一枚で、不行儀な腹ばいになったまま、はいってきた男を横眼で見ながら、巻煙草に火をつける。ムクムクと豊かな肉が、すべっこい白絹の表にまる出しだ。おかしらがそういう恰好でいる時ほど、部下の男どもが困ることはない。
「ちょっと、へんなことがあったんです。だもんだから、急いでお知らせにきたんですが」
男はなるべくベッドの方を見ないようにしながら、モジモジして言った。
「へんなことって、何?」
「船の火夫をやらせてある松公ですね。あいつが、ゆうべのうちにいなくなっちゃったんです。船じゅう探してみましたけれど、どこにもいねえ。まさかズラカルはずはねえんだから、もしや、陸で捕まったんじゃないかと思いましてね。それが心配だものだから」