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くろとかげ
黒蜥蜴
江戸川 乱歩
「日の出 第三巻第一号―第十二号」1934(昭和9)年1月号~12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 107,633 字 · 215 页
お父さんていうのは、大阪の大きな宝石商なのよ」
「じゃ、あの岩瀬商会じゃありませんか」
「よく知ってるわね。その岩瀬庄兵衛さんがここに泊っているの。ところが少し面倒なのは、先方には明智小五郎っていう私立探偵がついていることです」
「ああ、明智小五郎が」
「ちょっと手ごわい相手でしょう。幸い、あいつはあたしを少しも知らないからいいようなものの、明智って、虫のすかないやつだわ」
「どうして、私立探偵なんかやとったのでしょう。先方は感づいてでもいるのですか」
「あたしが感づかせたのさ。あたしはね、潤ちゃん、不意打ちなんて卑怯なまねはしたくないのよ。だから、いつだって、予告なしに泥棒をしたことはないわ。ちゃんと予告して、先方に充分警戒させておいて、対等に戦うのでなくっちゃ、おもしろくない。物をとるということよりも、その戦いに値打ちがあるんだもの」
「じゃ、こんども予告をしたのですね」
「ええ、大阪でちゃんと予告してあるのよ。ああ、なんだか胸がドキドキするようだわ。明智小五郎なら相手にとって不足はない。あいつと一騎打ちの勝負をするのかと思うと、あたし愉快だわ。ね、潤ちゃん、すばらしいとは思わない?」