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くろとかげ

黒蜥蜴

江戸川 乱歩

「日の出 第三巻第一号―第十二号」1934(昭和9)年1月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 107,633 字 · 215 页

青空文庫

拝見したいわ」

「いつも、離したことがありませんの。可愛いあたしの奴隷ですもの」

ああ、緑川夫人のいわゆる人形とは、いったい何者であろう。早苗さんは少しも気づかなかったけれど、「可愛い奴隷」なんて実にへんてこな形容ではないか。「奴隷」といえば、読者はただちに、潤ちゃんの山川健作氏が、やっぱり夫人の奴隷であったことを思い出しはしないだろうか。

緑川夫人の部屋は階下に、早苗さんたちの部屋は二階にあった。二人は階段の登り口でしばらくためらっていたが、とうとう夫人の部屋へ行くことになって、そのまま廊下を進んで行った。

「さあ、おはいりなさい」

部屋につくと、夫人はドアをひらいて、早苗さんをうながした。

「あら、ここちがってやしません? あなたのお部屋は、二十三号じゃありませんの」

まったくその通りであった。ドアの上には二十四の番号が見えている。つまりそこは、夫人の隣室の山川健作氏の部屋であった。

あの人殺しの拳闘家は、早く夕食をすませると、逃げるようにこの部屋にもどって、身をひそめて、その時のくるのを待っているはずではないか。そこには、麻酔剤をしみこませたガーゼが、棺桶同然のトランクが、犠牲者を待ちかまえているはずではないか。