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くろとかげ
黒蜥蜴
江戸川 乱歩
「日の出 第三巻第一号―第十二号」1934(昭和9)年1月号~12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 107,633 字 · 215 页
まさかあの有名な緑川夫人を見知らない雇人はいないでしょうからね」
だが、この明智の機敏な手配それ自身が、またしても一つの失策であった。
「黒トカゲ」は大急ぎで階段を降りると、実に意外にも、出口に向かおうとしないで、自分の部屋へはいってしまった。
三分間、かっきり三分間であった。
再び彼女の部屋のドアがあくと、そこから一人の意外な青年紳士が出てきた。恰好のいいソフト帽、はでな柄の背広服、気取った鼻目がね、濃い口ひげ、右手にはスネークウッドのステッキ、左手にはオーバーコート。
これがわずか三分間の変装とは、お染の七化けもはだしの早業、魔術師と自称する「黒トカゲ」でなくてはできない芸当だ(そういう変装用の服装は、いつも旅行鞄の底に用意されていたのだ)。その上、なんとまあ抜け目のないことには、トランクの中の宝石類は、一つもあまさず、その背広服のポケットにおさまっていたのである。
青年紳士は廊下の曲がり角で、ちょっと躊躇した。表からにしようか、それとも裏口からにしようかと。
その時分にはもう、合鍵が間に合って、明智たちは階下へ降りていたが、まさか表玄関から逃げ出しもしまいと、その方は支配人にまかせ、手分けして幾つかの裏口の見張りをしていたのだが、「黒トカゲ」