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くろとかげ
黒蜥蜴
江戸川 乱歩
「日の出 第三巻第一号―第十二号」1934(昭和9)年1月号~12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 107,633 字 · 215 页
怪老人
早く行ってごらんなさい」
すると、案のじょう、その男は明智の部下であったと見えて、
「人違いじゃありませんか。明智探偵なんて知りませんよ」
とさすがに用心深い返事をしたが、滑稽にも、言葉と仕草とはうらはらに、青年紳士が二、三歩行くか行かないうちに、もうアタフタとホテルの方へ駈け出していた。
「黒トカゲ」は、クルリと廻れ右をして、そのうしろ姿を見送ったが、こみ上げてくるおかしさに、ついわれを忘れて、
「ウフフフフフフフ」
と、無気味な笑いをもらすのであった。
怪老人
明智は敗北した。しかし弁解の余地がないではなかった。少なくとも、依頼を受けた早苗さん保護の役目だけは、完全に果たしたからだ。
岩瀬氏は、女賊を逃がしたことなどは二の次にして、ただ娘の助かったことを感謝した。明智の手腕を讃美しておかなかった。それに、こういう結果になった大半の責任は、岩瀬氏にあったといってもいいのだ。「黒トカゲ」の変装をわが娘と信じきって、その隣のベッドに寝ながら、賊のからくりを看破し得なかったのは、なんといっても岩瀬氏の手落ちであった。
だが、明智はそういうことで慰められはしなかった。