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いやなかんじ

いやな感じ

高見 順

「文学界」1960(昭和35)年1月~1963(昭和38)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 292,113 字 · 587 页

青空文庫

「なんだと」

つかみかかろうとして俺は、俺の部屋にはいりこんでこんなことを言う波子に、玄関でのあの異様感をふたたびよみがえらすと同時に、部屋のなかにも、こいつは変だぞと俺に感じさせるものがあるのに気づいた。一見して、ガサ(家宅捜索)のあとと分るようにひどく取り散らかっているというのではないが、ものの位置が変っているあたり、ぴんとくるものがあった。

「誰か来やがったな」

波子につかみかかろうとした手を、俺は俺の顔に当てた。顔を撫でおろすと、ぬるぬるとした粘液が――汗というより、まるでウナギのヌルみたいな気味の悪い液体が、俺の指にべっとりと来る。その指の間から俺は、波子が黙ってうなずくのを見た。

「来たか」

「ええ」

声をひそめて、

「でも、大丈夫……」

「なにが大丈夫……」

しまった! と俺は唇を噛んでいた。いままで、いっときも肌身離さずに持っていた大事なピストルを、俺は床の間の横の地袋のなかに隠しておいた。内地ならいざ知らず、ここで女郎買いへ行くのに、そんなものを持って行ってはまずいと思ったからだが、昨日も実は総督官邸の様子を探りに出かけたとき、不審尋問に万一ひっかかった場合を考えて、ピストルを地袋へ隠して行った。