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いやなかんじ

いやな感じ

高見 順

「文学界」1960(昭和35)年1月~1963(昭和38)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 292,113 字 · 587 页

青空文庫

わたしを愛してくれた者たちよ さようなら

わたしが愛した者たちとも別れて

わたしは森へ死にに行く

森のけものの約束を守って

わたしはひとりで死ぬであろう

森のけものの血が おお その時

わたしのなかでよみがえるだろう

人間にならされる前の野獣として

ならした人間どもにベロを出して

ならされた屈辱をベロで舐めおとして

莞爾としてわたしは死ぬであろう

俺は猫のように足音を忍ばせて部屋に近づいた。やはり誰かいるかもしれぬと警戒したが、その部屋に、ほかならぬ波子を見出したとき、俺は思わず、

「生きてたのか!」

波子は猫のように眼をきらりとさせて、自分の唇に急いで指をたてた。大きな声を出すなとそれで知らせて、

「なんのこと?」

と低い声で言った。

「昼間の猫はどうしたろう」

と俺は言った。波子の上気したような顔は汗で光っていた。唇が接吻のあとみたいに濡れていて、いやに煽情的だ。女郎屋へあがりそこねた俺は今ごろになって、かっと燃えてきて、波子に挑みかかって行きたくなった。すると波子が、

「お客さんはやっぱり、ただのネズミじゃないわね」

と言やがった。若い女がまるで年増みたいな不敵な言葉を吐いた。