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いやなかんじ
いやな感じ
高見 順
「文学界」1960(昭和35)年1月~1963(昭和38)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 292,113 字 · 587 页
「ケマン?」
これは囚人の隠語だ。
「ムショへ君は行ったことないのかい。ケマンジュウ。毛の生えたマンジュウ」
重箱面はあきれて出て行った。犬の遠吠えが聞えてきた。心細そうな、断末魔のうめきのような、ひどく気色の悪い吠え声だった。
とろとろっとしたと思ったら、また唐紙が開かれて、重箱面がはいってきた。そう思って、
「うるせえな」
蒲団をかぶったら、それを乱暴にひっぺがされた。
「なにしやがる」
ねぼけ眼に映ったのは重箱面ではなかった。ジケイ(刑事)が俺の胸もとにピストルをつきつけていた。そのうしろにアゴヒモをつけた警官が、おっとり刀の恰好で、音のしないようにサーベルの柄を握っている。
「本庁」の奴らに、寝込みをおそわれたのである。俺も重箱も――全部、一網打尽だった。武装警官に包囲されて、俺たちは袋のネズミだった。
警視庁にいったん運ばれて、それから俺は俺のいわばおなじみの「所轄」へ連行された。本庁留置ではない。つまり俺は三下扱いなのだった。カイ(手錠)をはめられて、俺は自動車に乗せられた。早暁の市内はいとも平和な表情だった。モヤがかかって、街はまだ眠りからさめてないなかを、新聞配達が走って行く。