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いやなかんじ

いやな感じ

高見 順

「文学界」1960(昭和35)年1月~1963(昭和38)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 292,113 字 · 587 页

青空文庫

「この野郎、大きな面しやがって……」

と房のなかの者がいきり立って、

「旦那。黙らせましょうか」

看守にかわって俺に制裁を加えようというのだ。

「待て」

看守が椅子から立ってきて、

「こら、静かにせんか」

と、なだめるように俺に言った。

「黙れ!」

慷堂直伝の大喝一声で俺は看守を睨みつけた。

看守の巡査も、俺を鉄格子越しに睨んでいたが、ちぇっと舌打ちをすると、

「手がつけられない……」

つぶやいて、去って行った。俺を右翼と見ての遠慮なのだ。

同房の者はあっけに取られた眼で、俺を見た。俺みたいな新入りが、留置場で大きな面をしたら、本来ならただではすまないのだ。看守に殴られるよりも前に、同房の者に袋だたきにされる。だが、「旦那」の看守が俺に一目おいたとなると、みなは途端に小さくなってしまった。

房のなかがしゅんとなったとき、

「ちょいと、ちょいと」

乞食としか思えない身なりの男が、それまでは壁にヤモリみたいにへばりついていたのに急に、俺に声をかけた。みながいきり立ったときは黙って身をすくめていたその男が、周囲が萎縮したとなると、逆に、

「いけないね、あんたは」

横柄な声で言った。