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いやなかんじ

いやな感じ

高見 順

「文学界」1960(昭和35)年1月~1963(昭和38)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 292,113 字 · 587 页

青空文庫

それを、あんたは見抜いている。犬の次も、ちゃんと見抜いている」

「それが俺のハッタリさ」

ハッタリを言わない今のほうが、かえって気味が悪かった。いや、このときほどアビルが毅然と見えたことはない。神秘と威厳にアビルは輝いていた。

狼狽が新たにみずみずしく俺に襲ってきた。かなり強烈な苦痛を伴った狼狽の、その苦痛は前よりも強まっていた。いよいよ強まってきた、そう言える苦痛を伴ったこの狼狽はいま俺に、いままで自分のうちに死人を感じていた俺が、いまこそ生へと這い出そうとしているのだということをあざやかに告げた。死んだ俺が生きようとしている。それが俺に狼狽をもたらしたのであり、コチジロの波子を知ったことが俺に与えた狼狽とはまさにそういうものだったのだ。そしてその狼狽がまた俺に、俺は生きようとしているのだということを自覚させた。おぼろに自分で感じながら、まだ薄明に沈んでいたその自覚に、狼狽が徐々とはいえ、はっきりと光を投げかけたのに他ならない。

生きようとしている。生きようとすることが、狼狽とともに苦痛を呼んでいたのだ。希望が俺には苦痛なのだ。絶望と同じような苦痛だった。