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いやなかんじ

いやな感じ

高見 順

「文学界」1960(昭和35)年1月~1963(昭和38)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 292,113 字 · 587 页

青空文庫

そしてすぐ、

「そいじゃ……」

と立ち上った。家の裏手に真二郎のやっている罐詰工場があった。工場と言っても小規模のもので、漁のない冬は休んでいる。その工場の一隅に、出稼ぎの女工たちのための寄宿舎があって、ひとまず俺たちはそのひと部屋を当てがわれた。「渡り鳥」と呼ばれている女工たちは、雪の季節は故郷に帰っていて、今はいない。

波子はさっそく部屋の掃除をしながら、

「あの奥さんは綺麗な人ねえ」

「うん」

「でも、なんだか、こわそうな人ね」

「うん」

「ご主人より年上みたいだけど」

「うん」

「何を言っても、うんうん……いやねえ」

「うん」

「あら、こんなところに、お手玉が……」

押入れのなかに波子は、女工が残して行ったらしいお手玉を見出した。色とりどりの美しい端切れで作ったお手玉は、その色も褪せ、うすよごれていることで、持ち主のながい間のそれへの愛着を語っている。

「コハゼがちゃんとはいってるわ」

あずきのなかに古タビのコハゼを混ぜておくと、つくときの手ざわりがよく、コハゼの音も快い。その音をなつかしんで波子は、耳もとでお手玉をついていたが、やがて、高くつきあげて、

サイジョウザンハ キリフカシ