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いやなかんじ

いやな感じ

高見 順

「文学界」1960(昭和35)年1月~1963(昭和38)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 292,113 字 · 587 页

青空文庫

チクマノカワハ ナミアラシ

ハルカニキコユル モノオトハ

サカマクミズカ ツワモノカ

それはいたいけな少女の声だった。波子のその声が俺の胸にしみ透って行った。

ノボルアサヒニ ハタノテノ

クルマガカリノ ジンゾナエ

このお手玉をここではアヤコと言い、お手玉をつくのをアヤツキと言うのだとは、のちに知ったことである。

「どうしてお手玉を置いてったのかしら。置き忘れるなんてことはないわね」

「うん」

「死んだんじゃないかしら」

「持ち主が?」

と俺は言った。不吉なので、その女工の友だちが捨てて行ったのだろうか。

「そんなもの、手にするんじゃない」

きたないから捨てたがいいと俺は言った。

「もったいないわ」

波子は手のなかに包んで、

「寒いわねえ」

と初めて言った。

三月になると、早くも罐詰工場の女工たちがくりこんできた。東北の貧農の娘たちである。地面の雪はまだとけないが、カニ取りの漁は始まっていた。

女工の部屋から俺たちは独立家屋に移った。と言うと体裁がいいが、バラックである。俺は帳場の手伝いをすることになった。漁船の雑夫として雇われた、男の渡り者も、どっとはいってきて、俺の存在など一向に誰の眼もひかなかった。