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いやなかんじ
いやな感じ
高見 順
「文学界」1960(昭和35)年1月~1963(昭和38)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 292,113 字 · 587 页
「あの人たち、あたしと同じような方言を使うわ」
波子は興味深そうに、
「バッテンじゃないけど、バッテと言うの」
たとえば、行ったバッテ(けれど)見えなかったと言う。
「雑夫は九州もんなのか」
「いいえ、あの女工さんたちよ。秋田から来たんですってさ。それが、九州と同じバッテを使うのよ。不思議ねえ」
その女工たちのなかには、根室からさらに船に乗って、クナシリ島の罐詰工場へ出稼ぎに行く者があった。お給金が、ほんのすこしばかりだが根室で働くのよりはいいというので、島へ渡って行った。母親のお古のビックリ(信玄袋)をさげて、けなげに――だが、俺には、その小娘たちが哀れに見えた。信玄袋のなかにきっとお手玉を入れている娘もあるだろう。
そうした女工たちの姿を見て波子は、ぼんやりしていてはもったいないから、自分も工場で働こうと言い出した。
「罐詰工場でか?」
「ええ」
女工たちが(彼女らの方言で言うと)「わったわった」働いている工場からは、タラバガニの大きな脚を出刃でトントンと切っている音が、絶え間なく聞えてくる。この作業は出刃截割と呼ばれていた。単にサイカツとも言う。オホーツク海にカニを取りに出た船(カニ工船でなく、根室のそのころの船は独航船だった)がどっと港にはいると、工場のトントントンというサイカツの音が深夜までつづくのだっ