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いやなかんじ

いやな感じ

高見 順

「文学界」1960(昭和35)年1月~1963(昭和38)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 292,113 字 · 587 页

青空文庫

なかった。百成のこの細君の、不意の来訪に俺が驚いたようなものか。いや、ちがうな。花にすればこの細君は水芭蕉だ。

東京ではこの福寿草はお正月用のめでたい花として鉢植えになっていて、それも盆栽用のウワグスリのかかった贅沢な鉢に植えてあって、俺の子供の時分、おやじはそれをよく大晦日に買って(きまってそれは大晦日だったな)、酔っ払っていても、これだけは大事そうに持って帰ったものだ。長持ちのする花だったが、花が開ききると、それなり花と一緒に福寿草も枯れてしまうのが常だった。東京では育たないのか、毎年買っては、毎年枯らしてしまう。埃をかぶって、カサカサに枯死した姿を見るのは、子供心にも無慙だった。その福寿草の野生の姿を俺は根室へ来て初めて見たのだ。こんな北の果てで、お眼にかかろうとは――俺は驚いたが、同時に、じーんと胸にくるものがあった。この福寿草は枯らされないですむ。枯れないで、生きられる。大地に根をおろして生きている。哀れな鉢植えではなく、大地に生きている福寿草を俺は初めて見たのだ。思いなしか、そのつぼみは東京で見たときとちがって、いきいきとしていた。

北の果ての福寿草は、北の果てに来ている俺に、こう言っているようだった。