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いやなかんじ
いやな感じ
高見 順
「文学界」1960(昭和35)年1月~1963(昭和38)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 292,113 字 · 587 页
「お上りになりませんか」
俺の言葉を聞き流して、
「金原さんをご存知じゃありません?」
その綾子の頬には、つけぼくろのようなほくろがあった。
「釧路の……?」
釧路へ行ったという百成の友人のことかと俺は思ったのだが、
「いいえ」
それなりその話はやめて、
「水芭蕉が綺麗に咲いて……」
と家の裏手に眼をやった。溝をはさんで、水芭蕉がいっぱい咲いている。水芭蕉の繁茂するここは、それだけ湿気ているわけだ。その花は綺麗と言えば綺麗だが、焔のような形の、しかし分厚い白い花がぬっと地面から、花だけ出ているのは、大形のせいもあろうか、綺麗ともちがう妖しさだった。
「なんだか気味の悪い花ですね。まるで毒でもありそうな……」
「毒の話は聞かないけど……。そうねえ、これを馬は食べないわね」
本州だと山の奥へ行かないと見られない花である。俺はその本州でも今まで見たことがなく、ここへ来て初めて見た。
そう言えば、あの福寿草が天然自然に咲いているのも、俺は生れて初めてここで見た。もっともこれは家の近くでなく、町から離れたところで見たのだが、日当りのいい、よそより早く雪が消えた崖の、一面の枯草のなかから、黄色い福寿草のつぼみがぽっかりと出ているのを見たときは、俺は、なんと言ったらいいか、口では簡単に、へーえと言ってたものの、そんな簡単な驚きでは