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いやなかんじ
いやな感じ
高見 順
「文学界」1960(昭和35)年1月~1963(昭和38)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 292,113 字 · 587 页
「斎田慷堂か」
ひどい侮蔑を受けたかのように顔を真赤にして、
「慷堂には慷堂の支那観があるだろうが、矢萩大蔵には矢萩大蔵の支那観がある。排日が今では抗日になり、侮日にまでなったのを黙視できるか!」
家へ帰ると俺は矢萩に会ったことを波子に伝えた。支那行きをすすめられたと話すと、
「それで、なんて返事したの」
急きこんで波子が聞く。
「ことわった」
「まあ、もったいない」
波子のこの言葉は久しぶりに聞いた。もとの勝気に戻った声で、
「チャンスだったのに」
「なんのチャンスだ」
「ここから出られたのに……こんな生活から抜け出られたのに」
惜しいことをしたと波子はくやしがって、
「きっと百成さんの奥さんがこっそり取り計らってくれたんだわ」
「奥さんが?」
「百成さんの兄さんは支那へ行ったそうよ」
「アビルが? なぜそれを今まで俺に黙ってたんだ」
「だって、奥さんが黙ってなくちゃいけないって……」
赤ん坊の志奈子が突然、火がついたみたいに泣き出した。
――波子はその後も何かと言うと、もったいないことをしたと俺をなじった。もとの強気の波子に戻ったその口吻に、俺もしまいにはたまりかねて、