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いやなかんじ

いやな感じ

高見 順

「文学界」1960(昭和35)年1月~1963(昭和38)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 292,113 字 · 587 页

青空文庫

波子も俺と同じような気分になっていたようだ。組み伏せた手を俺がゆるめると、下から俺に情熱的に波子は抱きついてきた。

「好きだなあ、波子も」

わざとそんなことを言ったが、波子は黙ってみとめていた。もとはこんな波子じゃなかった。波子も変った。

この波子とできたのは東京でだが、波子がいわば女になったのは根室に来てからだった。あら、変だわと波子は言ったものだ。

「変じゃない。それが当り前だ」

「あら、いや、恥ずかしい。いや、いや」

ラン(女郎)やガセビリしか知らない俺は、ガセのヨガリ声しか知らなかった。技巧ではない、ほんとのこういう声を知ったのは初めてだった。例外はあのおいらん、それから照子がただ一度、たしかにあれはガセの声じゃなかったが……。

「好きになったなあ、波子は」

「誰のせい?」

と波子は可愛いことを言やがって――全くそれは、言やがってと言うほかはないが、

「あんたを、あたし、好きなのよ。好きで、好きで……」

と波子は言った。これは、言やがったではなく、言ったのである。その声につい、俺は、

「東京へ行ったって俺はむざむざ、パクられはしねえ」

パクられる心配からそう言ったのか。