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いやなかんじ
いやな感じ
高見 順
「文学界」1960(昭和35)年1月~1963(昭和38)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 292,113 字 · 587 页
つかまったら、波子をこうして抱けなくなる。
「つかまったりしちゃ、いや」
と言う波子は、子供ができる前とできた今とはだいぶちがってきていた。波子の言葉は何か不吉な予言みたいにも聞けた。――
「まだ駄目よ。まだ……」
これは、まだつかまったりしちゃ駄目だという意味ではない。
「波子。波子ったら」
波子がさきにのけぞったときに、
「今日は……」
庭先から女の声が聞えてきた。綾子だ。いけねえ。ヒツジマク(障子)をあけられちゃ、かなわねえ。
「ちょっと待って下さい」
と俺はどなった。そしてあわてて身体をおこそうとする波子をひっつかまえて、駄目だと今度は俺が言った。障子をあけるなら、あけるがいいと、俺は俺の痴態をそこに客観的に見るおもいで、その短いいっときの恍惚を楽しんだ。
あの綾子が俺の言う通りおとなしく待っていたのは、ちょっと意外でもあった。俺は身じまいをしながら、わざとドタンバタンと物を片づける音を立てて、
「取っ散らかしたもんで……」
障子をあけて、
「急に東京へ出ることになったもんで……」
あたしもそれでうかがったんですと言う綾子は、珍しく白粉気のない顔だった。その顔はこれも意外に美しかった。