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いやなかんじ

いやな感じ

高見 順

「文学界」1960(昭和35)年1月~1963(昭和38)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 292,113 字 · 587 页

青空文庫

「それに英米がかならず出てくる。出てくるように支那はしむける。そうなると、せっかく満州をおさえたのに、元も子もなくなってしまう恐れがある」

「英米もともに討ったらいいでしょう」

と若い将校は肩を怒らせた。

「そんなことを言うから、国民から軍閥だなどと言われる」

「また、国民ですか」

ふと、血の臭いがした。それを俺は血なまぐさい話のせいかなと思ったが、そうではなかった。気のせいではなく、俺の息が血なまぐさいのだった。俺は口の前に両手をやって、はあはあと息をして、自分の息をかいだ。たしかに血の臭いがする。真冬に子供がかじかんだ手を息で暖める恰好を、真夏に俺がやっているのに、慷堂は、なにをふざけてるのだといった眼を向けたが、すぐそのけわしい眼を将校のほうに転じて、

「戦さを進めて国内改造をしようというのが、君たちの倒さねばならんとする軍閥の考えだ。君たちは何よりもまず、天皇陛下に帰一し奉る国内改革こそが大事だという意見だったのではないか」

「支那を討つことに先生は反対なのですか。先生は前に、日本の援助があったればこそ、支那革命が成就したのだとおっしゃった。排満興漢の旗じるしをかかげたあの中国革命同盟会の本部が東京にあったればこそ、安全に守られて、清朝顛覆の大業も成功を見ることができたのだと先生はおっしゃった。