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いやなかんじ

いやな感じ

高見 順

「文学界」1960(昭和35)年1月~1963(昭和38)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 292,113 字 · 587 页

青空文庫

「これじゃ、めったに上海にも行かれねえか。こんな目に会わされちゃ、かなわねえから、四郎さんも上海には行きたくねえか」

砂馬は俺に言ったが、俺の言った見せしめの意味はちょっとちがうのだった。

「これは矢萩大蔵の仕業じゃないのか」

砂馬は黙って俺を見ていた。

「こんな漬け物のお裾分けはことわるね」

と俺は言った。

上海に戦火が飛んだ。朝倉の塩漬け死体が上海から砂馬の家へ送られてきた年の夏のことである。

暑いさかりのその八月中旬、二・二六事件の民間側被告に判決が下された。斎田慷堂は南一光とともに死刑を宣告された。砂馬が言っていた通りになったのだ。まさかと思ったが、非公開のヤミ裁判は、事件に直接の関係がない慷堂たちに極刑を下した。

判決後、ただちに――五日後という早さは、ただちにと言っていいだろう――刑が執行された。銃殺である。北槻大尉らが処刑されてからちょうど一年目に当っている。将校たちは天皇陛下万歳を三唱して死んで行ったそうだが、慷堂は黙然と銃口の前に立ったと言う。天皇陛下万歳の三唱をすすめる者があったが、

「それには及ぶまい」

と首を振ったそうだ。その一言にこめられた複雑なおもいが俺に惻々と迫ってくる。