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いやなかんじ

いやな感じ

高見 順

「文学界」1960(昭和35)年1月~1963(昭和38)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 292,113 字 · 587 页

青空文庫

慷堂の痩躯が蜂の巣のように銃弾を受けた日、彼の愛していた中国に、日本の渡洋爆撃機が空から盲爆を加えていた。上海は阿鼻叫喚の修羅場と化していた。支那事変の勃発である。

そのころ、俺は千葉の海岸に実はのんびりと避暑に行っていた。いや、避暑なんていうしゃれたもんじゃなく、東京の炎暑で病気がまたぶりかえしちゃまずいと、外房州の漁夫の家に、つてをもとめて行っていたのだが、よそ目には、女房を働かせて亭主ひとりが避暑とは、なんて結構な身分だろうというふうに見えたろう。その地で判決を聞いた俺は、頭にかーっと血がのぼって、一時はすぐさま東京へ飛んで出ようと思った。だが、出たところで、どうなるものではない。慷堂に会うことはおそらくできないだろう。許されないとなると、かえって逆上して何をしでかすか自分でも分らない。俺はじっと海と睨めっこをしていることにした。

太平洋に面した外房州の海岸は、風のない穏やかな天気でも、すごい波が打ち寄せて、嵐の日みたいに、その波がどどっと岩にくだけている。壮快である。狂暴な壮快と言うか、壮快な狂暴と言うか、俺にはそんなふうに感じられた。