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いやなかんじ
いやな感じ
高見 順
「文学界」1960(昭和35)年1月~1963(昭和38)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 292,113 字 · 587 页
小切れにハサミを添えて俺に出した。武装解除を命ずるみたいにピストルを俺から取り上げることを憚っている。
「照ちゃん、切ってくれ」
照子の気持がちょっとつかみにくかったが、それゆえかえって俺はポケットから大型のピストルを出して照子の前に置いた。一瞬、そのピストルを照子は鋭い眼でみつめたが、手に取ってそれに小切れを当ててV字型に切った。チョッキの腋の下に、この布を縫いつけて、ピストルをひそませる袋を作るのだと言って、
「臨時の……間に合わせだけど」
照子は朱塗の小箱を持ってきて、なかから針と糸を取り出した。細い針穴に糸を通すと、手早く縫いつけにかかった。俺は複雑なおもいでその手つきを見ていた。
どこからか、胡弓のキューキューいう音が聞えてきた。昨日はいやに耳ざわりだったそれが、今夜は物悲しい音と聞かれるのは、早くもそれになれたせいというより、心のせいか。
朱塗の小箱は明らかに日本のものだった。その朱色は美しかった。それとの対比で、照子のまっさらのヨコビラ(足袋)が俺の眼をひいた。その純白も美しい。悲しい感じの美しさだ。
「白足袋はやっぱりいいもんだな。内地からわざわざ送ってこさせるのかい」