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いやなかんじ
いやな感じ
高見 順
「文学界」1960(昭和35)年1月~1963(昭和38)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 292,113 字 · 587 页
照子は足をひっこめるようにして、
「上海にいくらもあるわ。なんでも上海で買えるわよ」
にべもなく、そんな感じで言って、手を急がせている。
俺は出しっ放しのピストルをボンズ(ズボン)のポケットに押しこんだ。福井大将狙撃に使ったピストルは同志がこの上海に潜行して買ったのだが、苦心して入手したにもかかわらず、チャチな蓮根式のピストルで役に立たなかったものだ。
つづいて俺はヤチモロの四郎さんと言われていた時分の俺を思い出した。俺の胸のなかの「黒旗」はどうなったのか。丸万の胸のなかには、「黒旗」のかわりに「赤旗」がぶっ立てられているのか。
「四郎さん」
「なんだい」
「四郎さんはあたしに聞きたいことがあるのに、一番聞きたいことを言わないでいるのね。四郎さんもいい人ね」
「も……?」
と俺は言って、
「矢萩大蔵と照ちゃんのことは今さらもう聞いたってしようがない。俺にだって女房がいる」
「朝倉を殺したのも矢萩さんだということになってるんじゃないかしら」
照子は朝倉と呼びすてにして、
「矢萩さんはほんとはいい人なのに、他人から誤解されるのね。単純だからかしら」
そう言う照子は単純じゃなさそうだ。